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2010.12

01

2010.12.01

藤田嗣治のアトリエ

最近 「藤田嗣治 手しごとの家」林 洋子著 という本に出会い、画家としての視点とはまた一味違った角度から、生活全般を自分らしく楽しんでいた藤田嗣治の魅力を改めて感じて、私なりにパリの郊外の最後の住居兼アトリエを訪問した時のことを書いておきたいと思いました。

藤田嗣治さんとの出会いは20歳ぐらいのころ、ある雑誌の編集者とスタイリストのトークショーで、日本にはこんな素晴らしい画家がいたことを最近知ったんだよね。という話を聞いて、その時初めて、藤田嗣治の画集に触れる機会があり、すごく衝撃を受けたのを覚えています。最初に見た絵は、今思えば、代表作の「カフェにて」だったかな。

それから、パリを何度か訪れたり、美術館などで何点かの絵を観る機会があったりして、いつもなんとなく魅かれて、ああそういえばあの時のあの人の絵だなあと、ゆっくりと記憶をつなげていきながら、藤田がパリで活躍していた時代のことについての本や伝記を読む機会もあり、絵だけではなく、彼の生き方などにも興味を持っていきました。

BROG2010,1130-03

パリから帰国する少し前、念願だった最後の住居兼アトリエを訪れたのは8月の下旬ごろで、まだバカンス真っ盛り。あらかじめ、情報を集めて、電車に乗り、最寄りの駅まで着いたのですが、ただでさえ、数の少ないバスはバカンス中は動いておらず、それではタクシーと思ってみたところで、無人の駅で、もちろん見つかりません。

外に出ると、タクシーの運転手らしき名前と、携帯電話の番号が書いてある看板を発見。まずは、一番上の人に電話をしてみると、「僕は休暇中だから駄目だけど、*****さんに電話するといいよ」と、教えてくれたので、その*****さんの名前を見つけて、電話。すると、「今ね、空港にお客さんを乗せているところだから、そうだなあ30分ぐらいしたら駅に行かれると思うよ」とのこと。こちらの連絡先を伝えて、近くの公園でとりあえず時間をつぶしつつも、本当にタクシーがやってくるのか不安は募るばかり。

30分あまりで、約束通り*****さんはやってきてくれて、無事、着くことはできたのですが、これでは帰りが心配なので、1時間ぐらい後に迎えに来てもらえるかと聞いてみたところ「もう今日は僕仕事これで終わりなんだよ」と、まったく請け合う気なし。まあこんなこともあろうと、道をしっかり見て覚えたと思うので、駅まで歩くしかないねと友人と覚悟を決めました。

BROG2010,1130-02

 

中の写真撮影が禁止だったので、外観の写真しかお見せできないのが残念ですが、古い農家だったこじんまりした家を、リノベーションして、シンプルでありながら、手づくりの家具や、アンティークの置物、自分の絵や、お気に入りのものたちに囲まれた、とてもあたたかく居心地の良い空間でした。

1Fはキッチンと食堂、2階はリビング部分と、手づくりの衝立で仕切られたベットルーム。部屋からは、庭の木や緑や空が気持ちよく望めるシチュエーション。
そして、3Fの屋根裏部屋のアトリエは、今まで自分で見てきたアトリエの中でも、ああこんなアトリエで自分も仕事をしてみたいなあと心から思えるような、自分のイメージする理想のアトリエに近いものでした。

天井が高くて梁が見えていて、絵を描く、模型などを製作する、ミシンを踏む、手紙や執筆をするといった具合に、それぞれの作業に合わせた机とテーブルがあり、その時の気分で仕事をやりっぱなしのまま、好きなことができるような感じですごくいいなあと。私もこんなアトリエを構えることができたら仕事がはかどりそう!!と今でもそんなアトリエをひそかに夢見ています。

無造作に置かれた、机の上のものや、手紙などを、見に来た人たちが、手に取ってみてもガイドの人は何をいうわけでもなく、そんなゆるい感じがまた印象的でした。また、レンヌの教会の模型や、壁画の下絵となる大きな絵が壁に描かれていてそれをみてしまったら、やっぱりレンヌの教会にも行ってみたくなり、後日訪れたのですが、その当時、今から6年前には、まだ奥様である君代さんはご生存されていたので、君代さんの名前のところは色が刻印されていませんでした。自分の最期の場所を自分で作り上げて、選択できるのは幸せなことだなあと思います。今は二人で静かに一緒に眠っていらっしゃるのでしょうね。

BROG2010,1130-01

アトリエは、地元の人たちが管理していて、グループで説明を聞きながら一緒に見学するという形式。すでに、私たちが着いた時には、グループツアーが始まっていることを、外で一人待っていたマダムが親切に教えてくれました。そのマダムは友人と一緒に来たけれど、もう自分は2度目なので、外で待っているとのこと。帰りのタクシーを断られた話になり、帰り時間があえば、車に乗っていく?と親切に声をかけてくれて、帰りはパリ行きの電車のある駅まで、乗せていただけることになり本当にラッキーでした。旅先での人との出会いはいつも心温まります。

こんな空間で仕事をしたいとか暮らしたいとか、こんな生き方をしてみたいとかイメージすることはとても大切だと思います。そして、写真や映像や文章でも、雰囲気を垣間見たり想像をふくらますことはできるけれど、実際にできることならば、そういう場所を訪れて、その空間を体感してみたいですよね。

まだまだ、訪れて、体感したい場所は無数にあるけれど、あとどのぐらいの場所を訪れる事が出来るのかなあと思います。実際に体感したことは、忘れてしまっているようでも、体の一部になんとなく記憶されていて、そんな経験を積み重ねながら自分のライフスタイルが見えてくるのかもしれません。

それはひとそれぞれだからまた面白いし、たとえ同じ場所に一緒に行ったとしても、見ているところや、感じることや、記憶に残ることが違っていたりして、そんなことを後で気がつくと、また新鮮な驚きがあり、楽しいものです。

また、改めてゆっくりといつか藤田嗣治のアトリエを再訪してみたいと思います。その時にまた感じることは、きっと以前訪れたときとは、違うのかもしれませんね。それもまた楽しみです。


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